【日本語ニュース聴解】
台湾のいくつかの公園を訪ねてみると、草野球やキャッチボールを楽しむ人たちの姿がありました。
中文「(好きなスポーツは?)ソフトボールと野球」、「中学から野球をやっていて、今も時々します」（公園にいた人）
実は台湾で最も人気があるスポーツの1つが、野球。紙幣にも、少年野球の絵柄が使われ、リトルリーグからプロ野球まで、800を超えるチームがあります。その台湾野球の① 、1人の日本人がいました。近藤兵太郎さんです。
「近藤監督がいなければ、嘉義農林の野球チームもないし、嘉義農林の野球チームがなければ、台湾野球もありませんでした」（嘉義農林野球OB会の蔡武璋会長）
近藤さんは、明治２１年、愛媛・松山市で生まれ、松山商業高校野球部の初代監督に就任。甲子園で、初のベスト8入りを果たしました。そして、昭和の初め、日本の統治下にあった台湾に渡り(1928年ごろ)、その後、嘉義農林学校野球部の監督になったのです。近藤監督に指導を受けた1人、劉正雄さんは当時をこう② 。
「『鬼コーチ』と言われたぐらいね、厳しかった。バッと倒れて、こうやって、草の上でこう倒れる間1～2秒間でもいいから、それがいわゆる休みなんだ。それで息抜き。こういうことしないと、ほんと息が続かないんですよ」（劉正雄さん）
戦前、台湾で野球といえば、統治していた日本人中心のスポーツ。しかし、近藤監督は、民族に③ 、実力でメンバーを選抜しました。
「先生には、1つもそういう差別はなかった。怒るときは誰でも。あなたは日本人だから、少しは加減しようとかそういうことない」（劉正雄さん）
練習では、鬼のような近藤監督。グラウンドを離れると、生徒1人ひとりに、わが子のように接してくれたといいます。そして、昭和６年（1931年）夏の甲子園、近藤監督が率いる嘉義農林は、④ 準優勝を飾ったのです。この偉業の背景に、近藤さんの教えがありました。
「選手交代でもね、みんな駆け足。アンパイアからボールをもらうと、また帽子を脱いで。その、いわゆる格好じゃない。その精神です、野球魂です。ああいう選手には、そういう魂があるからこそ、皆がそうやって同じような動作をしているんですよ。そういうものを、近藤先生は、それをわたくしたちに、あの時は植えつけてやろうかなっていうあれ(思い)があったんじゃなかったと」（劉正雄さん）
松山市にある、近藤監督の娘さんの自宅です。仏壇には野球のボール。そこに書かれた文字。「球は霊(たま)なり」 野球は人生そのもの。これこそが近藤監督の思いだったのです。時が流れ、かつて野球部が汗を流したグラウンドは市営球場となり、嘉義農林学校も、嘉義大学に変わりました。しかし、今も甲子園準優勝の盾とともに、大切にされていることがあります。
（中文）「卒業して、選手が野球をやらなくても、正しい態度をとっていれば、仕事などに生かせるから、精神・態度を教えています」（嘉義大学野球部の鐘宇政監督）
近藤監督が白球に込めた教えは、⑤ 歴代の監督に受け継がれ、学生たちの指導に生かされていたのです。
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